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    October 24

    *聖女の石*

    それはこの、手のひらに乗って、少し余るくらいの青い石の話。
    今、その石が窓辺に置かれ、風を浴びるまでの話だ。

    私はこの石を、突然やってきた見知らぬ青年から受け取った。
    青年はもう随分と、この石を持っていたらしい。
    おかげで、と青年はつぶやいた。
    「御覧なさい、この通りです」
    言いながら、手のひらを広げてみせる。
    ぐずりと黒ずんだそれは、まるで石炭を握って砕いたばかりのようだ。
    「仕方のないことです」青年は続けた。
    「何故って私はあなたに逢い、この石を渡さなければならなかったから」
    私はその石を手に受け、なるほど私がするべきことは、と心中でつぶやいた。
    するべきことは、これと同じ手になる覚悟をすることなのですね。
    思いながら黙っている私の眉の辺りをみて、青年はふふっと笑った。
    「この石の主よ、あなたは大丈夫です」
    石の主とは、どういう意味なのだろう?
    「聖女リスカの意志を受け継いだあなたの元に、この石は届きました」
    黒々とした手をふところにして、青年は恭しく片足を引く。
    それは騎士のごとく。
    聖女リスカ?…聞いたこともない。
    「謂れのない話のようです」
    「いえ、私の仕事に間違いはありません」
    石を乗せている手のひらが、今にも黒く爛れそうに思えてならない。
    またその石の青は、内側から光を滲ませるように青いのだ。
    「もしも、あなたがそうでないのなら、ただ、このようになるだけです」
    青年はまた手のひらをみせる。
    ぐずりと黒ずんで、ぼろぼろと剥がれ落ちそうな有様に、ただ、なるだけ、とは。
    「繰り返しましょう。私の仕事に間違いはありません」
    青年はそう言って肩をすくめると、するりとドアの向こうに消えた。
    私はといえば耳知らぬ聖女リスカとやらの意志というものが、何かさえ知らず。
    仕方なく遠くのほうから光っては止む青いこぼれ火の石を、窓辺に置いた。

    さて、この石はいったいどれほどの時や距離を、ここまで運ばれてきたのか。
    聖女リスカの謂れや、その意志を受け継いだ者に届けられるに至ったいきさつも。
    私がこの石を受け取ることで動きうる強制イベントも、今は何もみえない。
    …ただ。
    石は窓辺でほんのりとした光をこぼしている。
    そして風を浴びるたび、その青い光が部屋の中に吹き込むような。
    何か物言いたげな気配のまま、石は窓辺に、あるのだ。